ブレグジットとは?イギリスのEU離脱による為替市場への影響と今後をMR.Tが解説

今回は、
今話題となっているブレグジットについてを徹底解剖していきます。

当記事を最後まで読めば、
ブレグジットの経緯を把握した上で
「ブレグジットはなぜ起こったのか」
「ブレグジットの問題点は何なのか」
「今後はどういったシナリオが考えられるのか」

などを全て知る事ができ、
今後の為替相場の動きを予想するのに役立たせられます。

コンテンツ

為替に悪影響を及ぼす恐れのある「ブレグジット(Brexit)」とは?

ブレグジット(Brexit)とは「British(イギリス)」と
「exit(離脱)」を掛け合わせた造語であり、
「イギリスによるEU(欧州連合)からの離脱」を意味しています。

これまでEU経済の中核を担ってきたイギリスですが、
イギリスは移民や社会保障、
国家主権などに関する複雑かつ難解な問題を抱えるようになり、
とうとうEUに対して離脱する事を通告しました。

それに伴い、
イギリスはまるで離婚調停を見ているかのような
激しい条件交渉の争いを長期間に渡って繰り広げています。

そこには様々な利害関係が絡んでおり、
今でもイギリスのEU離脱に関する条件を巡った
交渉が難航している状態です。

このように、
ブレグジットといっても単純に
イギリスがEUを離脱して事なきを得る
といった簡単な話ではありません。

そしてこのブレグジットの展開次第で、
今後の為替に与えられる影響も大きく変化するでしょう。

最悪のシナリオの場合、
FXに関係する為替相場のみならず、
世界経済が破綻するリスクすらもありますから。

まさに、
ブレグジットは世界経済が直近で抱えている大問題となっているのです。

ブレグジットは世界の金融市場を大きく揺るがす引き金となる恐れもある為、
金融関係者やFXトレーダーにとって放っておけない存在だと言えます。

ブレグジット(Brexit)に関するこれまでの経緯や為替の動き

まずは、
ブレグジットに関するこれまでの経緯の概略や
為替市場の動きなどを簡単に確認しておきます。

  • 2016年6月24日:国民投票によってイギリスのEU離脱が賛成される
  • 2017年3月29日:イギリス政府がリスボン条約第50条を履行
  • 2018年11月25日:イギリスとEUの間で離脱協定案が合意される
  • 2019年1月16日:EU離脱協定案をイギリス議会が否決
  • 2019年3月12日:EU離脱協定案が再び否決される
  • 2019年3月14日:イギリス議会がブレグジットの延期を可決する
  • 2019年3月21日:EU首脳はブレグジットの延期に合意

2016年6月24日:国民投票によってイギリスのEU離脱が賛成される

2016年6月23日、
イギリスでは「イギリスがEUを離脱するべきか否か」
を決める為の国民投票が実施されましたが、
その結果が世界を揺るがす事となりました。

その翌日となる24日、
国民投票の結果は離脱への支持が51.9%、
そして残留への支持が48.1%となり、
僅差ながらも離脱派が過半数を超え、
イギリスのEU離脱が賛成される形となったのです。

国民投票の結果が発表された後、
その波紋は瞬く間に為替市場を襲い、
ポンド円相場では安全資産である円が買われ、
イギリスの自国通貨であるポンド(GBP)が投げ売りされました。

なお、
その日のポンド円相場は一日で最大およそ17%の下落となり、
過去のポンド円史上最大級のボラティリティとなりました。

当時のマーケットはイギリスの
「EU残留」が市場コンセンサスになっていた為、
突如EUからの離脱が濃厚となってしまった当時の投票結果には、
為替市場・株式市場と共に不意を突かれた形で
大きく相場が崩れ落ちました。

2017年3月29日:イギリス政府はリスボン条約第50条を履行

2017年3月29日、
イギリスのテリーザ・メイ首相はEUの基本条約である
リスボン条約第50条の規定に基づき、
EUに対して離脱の通告を行いました。

リスボン条約(改革条約)とは
EUの基本条約を修正する条約の事であり、
欧州理事会に該当国がEUの離脱を通告出来るとされるものです。

そして、
同条約によって2年間の離脱交渉期間が設けられる事となり、
この時点で2019年3月29日午後11時に
EU離脱が決定する事となりました。

2018年11月25日:イギリスとEUの間で離脱協定案が合意される

2018年11月25日、
欧州理事会のドナルド・トゥスク常任議長(大統領)は
臨時で招集された欧州理事会にて、
ギリスのEU離脱に関する条件を定めた
「離脱協定案」と「政治宣言」を承認しました。

この離脱協定案の主な内容は、
ブレグジット後の移行期間やアイルランドの国境問題(詳しくは後述)、
離脱に関するEUへの清算金から市民の権利までを取りまとめたものでした。

なお、
離脱協定案を巡る交渉は
2017年6月から長期に渡って繰り広げられましたが、
およそ1年半かけてようやく承認が降りる形となりました。

2019年1月16日:EU離脱協定案をイギリス議会が否決

2019年1月16日、
メイ首相が提案した離脱協定案が今度はイギリス議会下院で採決されたのですが、
その結果は「賛成202票、反対432票」という圧倒的大差で否決となりました。

政府の議会において反対票と
賛成票の差が200以上も空いて否決されたのは
1925年以来とされており、
まさに100年に1度となる大差での政府案否決となったのです。

そもそもこの離脱協定案はEUと合意したものの、
イギリス議会からの承認を得られる見通しは
ほとんど立っていませんでした。

特に反対派から強く指摘されたのは
北アイルランドを巡る国境問題だったのですが(詳しくは後述)、
この採決結果によってますます
イギリスの不透明感は増すこととなったのです。

なお、
ポンド円は日本時間の15日から16日にかけて
一時-2%となる1ポンド=137円台後半まで下落したのですが、
その後はショートカバーが入りわずか2時間程で140円台まで回復しました。

2019年3月12日:EU離脱協定案が再び否決される

その後の2019年3月12日、
再びEU離脱協定案を巡るイギリス議会での承認採決が行われましたが、
結果は「賛成242票、反対391票」
となり2度目の否決となりました。

そしてその翌日となる3月13日、
イギリス議会ではメイ首相が取りまとめた離脱協定案が否決された事を受け、
「合意なき離脱」についての採決が行われました。

合意なき離脱とは、
EU側との何の取り決めもなく離脱を実行することです。

もしもブレグジットが
「合意なき離脱」となった場合、
イギリスはEU離脱の為の移行期間が無くなり、
予定されていた離脱日以降即日でEU法が適用されなくなります。

いわば「最悪のシナリオ」です。

しかし採決の結果、
「賛成321票、反対278票」
で合意なき離脱を回避する方が支持される事となりました。

なお、
13日の合意なき離脱の回避案の支持を受けてポンドは上昇したものの、
その結果に「想定外」という事はなく値動きは限定的となりました。

2019年3月14日:イギリス議会がブレグジットの延期を可決する

そして2019年3月14日、
イギリス議会はEUからの離脱を延期するのかどうかを採決し、
その結果「賛成412票、反対202票」でEU離脱の延期が可決しました。

これを受け、メイ首相は
「次の離脱協定案の採決が可決されれば、
EUに対してブレグジットを3ヶ月間延期する事を要請する」
と表明します。

そこでメイ首相は
今まで2回拒否されて来たEU離脱協定案を修正し、
3度目の採決に臨む姿勢をみせましたが、
3月18日にイギリス議員のバーコウ議長より
「提案内容が同じなら採決はできない」
と断言されてしまいました。

2019年3月21日:EU首脳はブレグジットの延期に合意

2019年3月21日、
EU加盟国の首脳はメイ首相に対して
ブレグジットを3月29日以降に延期する事で合意し、
離脱協定案がイギリス議会に承認されれば
5月22日まで延期される見通しとなりました。

これで当初予定されていた3月29日の離脱が確実に延期となります。

なお、
EU首脳は離脱協定案がイギリス議会に承認されなかった場合は、
2019年4月12日までの延期とし、
その間に「新たな計画を示す(離脱の長期延期が濃厚)」か
「合意なき離脱」のどちらかを選択するよう求めました。

また、欧州理事会のトゥスク常任議長は以前、
イギリスのブレグジット推進派に「地獄に特等席が用意されている」
と大胆に発言していましたが、
今回の会見では「ローマ法王いわく地獄はまだガラガラです」
と冗談交じりで話し、
最後に「Don’t go to hell(地獄に落ちないように)」
という言葉を残して会場を笑いに包み込みます。

そしてこの日の為替市場は
「イギリスが合意なき離脱に近づいているのではないか」
といった観測を受け、
ポンド円相場は20日以降のおよそ2日間で最大4円動く大幅下落となりました。

ブレグジット(Brexit)を起こす最大の理由となったイギリスの「移民問題」

さて、
ではそもそもなぜイギリスは
EUから離脱する事になったのでしょうか?

イギリスのEU離脱の理由として最も大きな要因となったのが、
「イギリスの移民問題」でした。

イギリスは2000年代より東欧などから積極的に移民を受け入れてきましたが、
下のグラフを見るとこれまで過去約40年間に渡って
イギリスへの純移民の数が増加し続けていた事が分かります。

出典:Migration Watch UK

2015年には
「ヨーロッパ難民危機」が起こり、
中東やアフリカからヨーロッパ諸国へ難民が殺到した事もまだ記憶に新しく、
これが社会的、政治的危機を起こすようになりました。

そしてイギリスはこの増え続ける移民に対し、
その流入をとうとう拒否したいと考えるようになったのです。

しかし、
イギリスはEUに加盟し続ける限り、
国内への移民の流入を完全に拒否する事はできませんでした。

なぜならEUは労働者の移動の自由を各加盟国の間で定めている為、
イギリスの勝手な判断で移民や難民の入国に
規制をかける事ができなかったからです。

では、
なぜイギリスは移民の流入を拒むようになったのでしょうか。

その理由は主に以下の3点です。

  1. 治安の悪化への懸念
  2. 賃金の低下や失業への不安
  3. 社会保障費などの税負担の増加

1.治安の悪化

まず一つ目の理由が、
移民の増加に伴う治安の悪化への懸念です。

イギリスで移民が増える中、
当時の国民投票前には
「その中にテロリストや犯罪者が紛れ込んでいるかもしれない」
といった不安が盛んに煽られていました。

移民を全て受け入れるという事は、
同時に治安の悪い国から来た犯罪者やテロリスト、
そして難民なども全て招いてしまう事となるからです。

当然イギリスはEU加盟国なので、
自分達だけ「移民は制限する!」
と断固拒否する事は出来ませんし、
そういった移民の犯罪の履歴などを細かく調査することすらも出来ません。

そして本当にイスラム国からの
テロリストが多く国内に潜入する事となれば、
少なからずイギリス国内でのテロによる
国民の死亡リスクは上がる事となります。

そのような恐怖の煽りを受け、
イギリス国民は「自分の命も危ないのではないか」
といった人間の生存本能が働いたわけです。

この移民、難民による治安悪化の懸念が、
国民の不安を余計に掻き立てる事となりました。

2.賃金の低下や失業への不安

2つ目の理由が、
イギリス国民の賃金の低下や失業への不安です。

近年、
イタリアやフランス・ドイツ・イギリスなどの
ヨーロッパへと移るシリアやイラクなどの移民や難民が増えるようになりましたが、
その中でも圧倒的に人気度が高かったのがイギリスでした。

なぜかというと、
かつて大英帝国と呼ばれていたイギリスはEU圏内でも特に経済規模が大きく、
英語も通じて労働賃金も比較的高いからです。

なので、
イギリスは移民者にとって絶好の国となり、
「自分たちはイギリスに行けば助かる」
という希望を移民者へもたらしていたのです。

しかし、
そうした移民者が増え続ける事が、
イギリス国民にとっては「自分の仕事が移民に奪われるのではないか」
「人件費の安い移民が増加する事によって
自分の賃金も低下するのではないか」といった不安に繋がっていました。

そのようなイギリス国民の不安が、
移民者を拒むようになったもう一つの理由として挙げられるのです。

なお、
これは現在の日本でも同じ事であり、
日本での外国人雇用が増えている事によって、
日本人の賃金は低下傾向にあります。

こう見ると、
外国人の受け入れを積極化させている日本と、
そうでないイギリスとの政策は180度異なっている事が理解出来るかと思います。

3.社会保障費などの税負担の増加

3つ目の理由が、
移民による社会保障費などの税負担の増加です。

EU加盟国であるイギリスは増え続ける移民の拒否が一切出来ない為、
政府はイギリスへやって来た移民者への社会保障を
全て国民の税金から負担して支援せざるを得ませんでした。

そもそもイギリス側も移民や難民に綺麗な街を汚されたり、
その辺で寝泊まりなどは決してされたくないので、
他に方法はありませんでした。

対して移民はイギリスの健康保険や年金などを
自由に活用する事が出来たのです。

しかし、
イギリス政府の予算にも限りがある為、
国民から集めた税金が移民ばかりに流されていては、
国家のお財布も次第に底を尽きてしまうわけです。

そこで、
イギリス国民は自分達が支払う税金で移民を救済したくない
と考えるようになりました。

これまで社会保障をたっぷりと支払ってきたイギリス国民からすると、
移民に対する政府の負担のしわ寄せを背負わされたくはないからです。

なので、
そういった悪循環に怒ったイギリス国民は、
こぞって国民投票の際にEU離脱の賛成へと票を入れたわけです。

国家主権を失い反グローバリズムを追求した大英帝国イギリス

これらの移民問題を抱えながらも、
イギリスは自らその制限を行う事はできませんでした。

なぜなら上述した通り、
イギリスのルールはEUに全てコントロールされているからです。

そもそもEUとは「全体主義」、
言わばグローバリズムの組織であり、
全体を取りまとめるEUはその加盟国の主権を全て握る事となります。

つまり、EUは常にイギリスという国家の上にある存在となるのです。

このようにブレグジットとは、
イギリスがEUに渡してしまった自国の
「国家主権」を奪還する為に起こったものであり、
ブレグジットの本質はグローバリズムのEUへ対抗する
「反グローバリズム運動」なのです。

ブレグジット(Brexit)によって起こり得る影響や大きな問題点

イギリスの移民問題によって、
多くのイギリス国民がブレグジットに対しての賛成へ票を入れたわけですが、
そのまますんなりと事が進みはしませんでした。

その後から現在に至るまでの間、
イギリスがEUを離脱する事に関する致命的な問題点が浮き彫りとなり、
大きく分けて以下の2つのような事が懸念されるようになったのです。

  • 北アイルランドとアイルランドとの国境問題
  • 世界最大の国際金融センターであるロンドンへの影響

北アイルランドとアイルランドとの国境問題

ブレグジットにおける最大の混乱を招いているのが、
北アイルランドとアイルランド共和国における国境問題です。

現在イギリスのEU離脱に関する離脱協定案を巡って何度も採決を行い、
否決されている状況にありますが、
これには北アイルランドの国境問題が大きく関係しているのです。

もしもイギリスがEUから離脱したとすれば、
イギリスとEUの間における自由なヒト・モノの移動に制限がかかるようになり、
国境を移動する際に通関手続きが必要となってしまいます。

そうなれば、
EUに加盟しているアイルランド共和国とイギリスの領土である
北アイルランドとの間に厳格な国境が敷かれる事となり得るのです。

出典:Googleマップ

仮に国境が設けられる事となれば、
国を跨ぐ度に通関手続きや検査が必要となる事が想定されるので、
その交通網も大渋滞となってしまうでしょう。

この国境問題は現在も想定を絶する大問題として議論されており、
「国境管理をどうするか」
についての問題がイギリスが簡単にEUから離脱できない障壁となっています。

ブレグジットによって起こり得る関税同盟や単一市場からの脱退

ブレグジットで懸念視されている問題は「
単に国境が敷かれて不便」
ということにとどまりません。

その背景では、「関税同盟」や「単一市場」からの脱退といった
大きな問題も同時に抱えられていました。

まずは北アイルランドの国境問題にも
関わるこれら2つの問題について見ていきます。


ブレグジットによってEU圏内での貿易に関税が課せられるようになる

そもそもEU加盟国の間では自由な貿易が許されており、
加盟国間での関税を撤廃する為の
「関税同盟」と呼ばれる同盟がありました。

しかし、
ブレグジットが起こると
イギリスは国境を超えたEU加盟国への輸出において関税が課せられるようになります。

つまり、
北アイルランドとアイルランドとの間にも
関税をかける為の税関検閲所を設置しなければならなくなるのです。

実際にイギリスの2017年の貿易内訳を確認すると、
イギリスの輸出先のおよそ4割がEU加盟国となっている事が確認出来ます。

出典:OEC

なお、
イギリスがEUを離脱した後は
年間約80億ドルの輸出関税がかかる事が想定されているので、
特に製造分野の輸出企業にとっては大きな打撃となり得るでしょう。


単一市場からの脱退

ブレグジットが起こると、
イギリスはEU加盟国の間で機能していた
「単一市場」も捨てなければなりません。

EU圏内ではヒト・モノ・サービス・お金などに国境の障壁がなく、
自由にそれらを移動できる「単一市場」が形成されています。

こうした移動の自由はEU圏内で定められている
「シェンゲン協定」によって担保されているのですが、
イギリスがEUのルールに縛られたくないというのであれば、
それは「国家の主権」と「単一市場」とのトレードオフとなります。

よって、もしもイギリスがEUから離脱する事となれば、
これまでEU圏内で流通していた
「ヒト・モノ・サービス」などの自由な流れに悪影響が及ぼされる可能性があるのです。

解決策が見えないアイルランドの国境問題

現在イギリスに統治下にある北アイルランドですが、
元々「イギリス」と「アイルランド」の
どちらに所属するかといった紛争を
1960年〜1990年代にかけて武力を使って繰り広げていました。

これを「北アイルランド紛争」と呼んでいます。

そこでもしも、
今回のブレグジットによって両国の間に国境が敷かれる事となれば、
再び深刻な武力を用いた争いが起こってしまう事も想定できます。

なので、
仮にブレグジットによって移民の受け入れの制限に成功したとしても、
この国境問題が深刻化すると
世界的な政治的危機を起こしてしまう事にもなり兼ねないのです。

厳格な国境の設置を避ける為の「バックストップ条項」が提案される

しかし、
イギリス側もEU側も北アイルランドと
アイルランドの国境に検閲所を作るような事は避けたいと思っていました。

両者とも、
再び武力による紛争が起こる事は避けたかった為に、
物理的な国境(ハード・ボーダー)を敷くのは辞めよう
といった考えで合意されたのです。
(実際に多くの国民にとっても望ましい事ではない。)

イギリスとEUの間に新たな協定が必要とされる

しかし、
その為にはイギリスがEUから離脱した後、
イギリスとEUがどのような関係になるのかをはっきりと決める必要があり、
イギリスとEUの間に新たな協定を作らなければなりませんでした。

そこで2020年末までの
「ブレグジットの移行期間」の間に新たな協定を作ってしまおうと考えたのですが、
もしも期間までに間に合わなければ、
最悪のシナリオとなる「物理的な国境の設置」を施行せざるを得なくなります。

その場合、
懸念されていたテロや紛争といった問題が起こることも想定されます。

そこで議題に出てきたのが「バックストップ」を設けるという案でした。


バックストップとは?

バックストップとは、
イギリスのEU離脱後に特に新たな協定で合意できなくても
北アイルランドとアイルランドの間で
厳格な国境を設けない為の最終手段の事を言い、
これはいわば「保険」のような緊急施策です。

具体的には、
他の方法を見つけるまで北アイルランドにおける物品や
農産物などを引き続きEU内の
単一市場や関税同盟に留めておこうといった施策です。

つまり、
バックストップによって北アイルランドは、
物理的な国境を回避する手段を見つけるまで
従来通り国境が無い自由なモノ・ヒトの移動ができるようになります。

しかし実は、
このバックストップこそが現在のブレグジット問題を深刻化させている
最大の要因となっていたのです。


バックストップの問題点

このバックストップには
多くのイギリス議員が反対するような大きな欠陥がありました。

特に問題とされているのが、
バックストップを継続させている限り
イギリスが事実上EUに残り続けてしまうという可能性がある事です。

バックストップが設けられている限り、
イギリスはEU離脱後もEUの関税同盟に残留する事となるので、
問題視されていた物理的な国境による貿易の弊害や、
武力による闘争などの懸念は取り除かれます。

しかし、
反EU派の議員はこのバックストップが
イギリスを無期限でEUの関税同盟に留め続けてしまうのではないか
と指摘していました。

仮にEU側がイギリスと何も協定を結ばず合意もしないでいれば、
イギリスは永遠にEUの制度から抜け出す事が不可能となり、
その規則に拘束されたままとなります。

なぜならこのバックストップは、
EU側が同意しない限りは解除する事ができないからです。

これに関してメイ首相は
「あくまで一時的な避難策に過ぎない」と主張し、
2021年までの期限を目処にした
バックストップ案である事を打ち出しました。

しかし、対してイギリス議会の方から
「バックストップは法的に保証などされていない」と反論され、
無期限でEUに縛られてしまうリスクについても指摘されたわけです。

更にこれが通用してしまうとなると、
イギリスは都合の良い時だけEUによる
単一市場および関税同盟を北アイルランドを通して利用し、
都合の悪い時には「私たちはEUから離脱している」
と主張する事ができてしまいます。

このような複雑極まりない取り決めが
国家の中でのお家騒動を招き、
経済を揺るがす恐れのある問題として
世界中で懸念視されているのです。

世界最大の国際金融センターであるロンドンへの影響

続いて、今回のブレグジットによって
もう一つ大きな影響を受ける事が予想されているのが
イギリスの首都であるロンドンの金融街です。

イギリスはEU最大の金融国であり、
その中核を担っているのがロンドンの金融街である
「シティー(City of London)」ですが、
EUから離脱するとその地位が一気に吹き飛んでしまう可能性があります。

世界最大の金融センターロンドンの地位

イギリスのロンドンは世界の為替取引のおよそ40%を占め、
海外の250を超える金融機関が拠点を置く
世界最大規模の国際金融センターです。

2018年9月に公表された国際金融センター指数では、
ロンドンがニューヨークに次ぐ第2位としてランク付けされました。
(2018年3月は第1位を獲得している。)

出典:The Global Financial Centres Index 24

元々イギリスは地形の問題から農業に不向きであり、
工業に関しても高い人件費を要する為に
人件費の安い他国に価格競争で負けてしまっていた
という背景もあり、
世界の富裕層を誘致して金融業を拡大させてきました。

その結果、
ロンドンは19世紀から現在にかけての
過去200年間で世界を代表する金融立国としての
地位とブランドを確立してきたのです。

しかし、
今回イギリスがEUから離脱してしまうとなると、
世界を代表する金融センターロンドンにとっても
大きな問題が起こります。

ブレグジットによって英金融業者はEUの単一パスポートを喪失する

ブレグジットによるイギリスの金融街への最大の影響は、
イギリスで免許を取得した金融機関が
他のEU圏内で金融業を営めなくなる事です。

そもそもEUでは、
欧州経済領域(EEA)に加盟する国の中で自由に金融業が営める
「単一パスポート」と呼ばれる免許制度があります。

イギリスに拠点を置く金融機関は、
この単一パスポートを取得しておけば
他のEU諸国に対して自由に金融業を展開する事が可能です。

しかし、
イギリスがEUを離脱してしまえば、
イギリスでパスポートを取得していた
金融機関の免許の効力が喪失してしまいます。

よって、
他のEU諸国で金融業を営む場合は
EU加盟国で通用する単一パスポートの再取得が必要となるのです。

この場合、
ロンドンに拠点を置いていた金融機関にとっては
EU圏内で人材や金融資本を自由に行き来させられる
という最大の魅力が無くなってしまい、
ロンドンを拠点にするインセンティブが薄れてしまいます。

それならば「イギリスではなく他のEU圏内に拠点を置いてビジネスをする方が良い」
と考える金融機関も出てくるでしょう。

こうした問題が、
ロンドンの世界最大級の金融センターとしての
地位を落としてしまう事にもなり兼ねないのです。

ユーロ建て取引の清算業務を行う権利を失う懸念もある

なお、
ブレグジットによってイギリスの金融機関に影響を及ぼすと考えられる
もう一つの懸念が
イギリスのユーロ建て取引の清算業務に関してです。

イギリスは自国通貨にポンドを採用していますが、
「EU加盟国である」という理由から非ユーロ圏であっても
ユーロ建て取引の清算業務が認められています。

なので、
ユーロ建て取引の清算を行う中央清算機関(CCP)が
ロンドンにも置かれています。
(清算機関とは、債権、エクイティ、デリバティブ、
商品などにおける取引の清算業務を行う機関のこと。)

しかし、
ブレグジットが起こるとイギリスはEUの加盟国では無くなるので、
必然的にユーロ建て取引の清算業務を行なっていた
資金決済業者は他のEU圏内への移転を余儀なくされるでしょう。

なお、
ロンドンの清算機関LCH Clearnetを中心に、
ユーロ建ての金利デリィバティブ取引は
およそ75%がイギリスに集中しています。

出典:Bloomberg

実際にその清算機能の拠点がイギリスから移転されるとすれば、
関連するイギリスの金融業者も
こぞってユーロ圏へと移転される事が予想されます。

よって、
今後の人材や企業のイギリスからの
大規模な移動が起こる可能性は高いと言えるでしょう。

ブレグジットによる金融機関や人材の大移動

単一パスポートの喪失、
そしてユーロ建て取引の清算機関の移転などの懸念から、
実際にブレグジットが起こった後は国際金融センターとしての
ロンドンの魅力が低下してしまうのではないかと考えられます。

イギリスのEU離脱後はイギリスに拠点を置く
金融機関のパスポートが喪失してしまう為、
イギリス本社の移転や人材の大移動が行われる可能性が大きくなります。

既に動き始めているイギリスの金融機関

ロンドンに拠点を置いていた金融機関が
他のEU加盟国へと新拠点を置く流れは既に始まっています。

実際に日本の大手金融機関である
三菱UFJフィナンシャル・グループは
ロンドン拠点をオランダのアムステルダムへ、
そして大和証券や三井住友フィナンシャルグループは
ドイツのフランクフルトへと拠点を移す計画を進めているようです。

なお、
ドイツ連邦金融サービス監督庁の高官は、
ここ数ヶ月間でイギリスの金融機関48社がド
イツへの移転申請を行なった事も明らかにしています。

※参照:ロイター

ロンドンは他のEU諸国と比較しても
金融機関の雇用者数が多く、
ロンドン人口のおよそ3割が金融サービス雇用者に該当していました。

なので、
ブレグジットに伴うイギリス金融機関の移転や取引の減少によって、
クライアント企業の喪失やマーケットの縮小、
さらにはイギリスの株価指数や為替の暴落にも繋がってしまう恐れがあるのです。

また、
ロンドンはこれまで国際金融センター指数において
ニューヨークと首位を争っていましたが、
以下の指数を見るとロンドン以外の金融センターである香港や
シンガポール、上海などの指数が相対的に大きく上昇している事がわかります。

出典:The Global Financial Centres Index 24

このように、
ロンドンの国際金融センターとしての地位は
既に弱まりつつあるようにも見て取れます。

ブレグジットの今後のシナリオと2019年の為替相場(FX)にもたらす影響

以上を踏まえ、
ブレグジットに関する今後のシナリオや
それに伴う為替相場への影響についてを考えていきます。

2019年3月24日の時点で、
今後想定されるであろうシナリオは主に以下の4つでしょう。

  1. 離脱協定案が可決され5月22日にEUを離脱
  2. 最悪のシナリオとなる合意なき離脱
  3. 長期に渡るEU離脱の延期
  4. イギリスによるEU離脱の撤回

離脱協定案が可決され5月22日にEU離脱

今後メイ首相による離脱協定案が
イギリス議会から可決される事となれば、
「合意のある離脱」として
5月22日までにブレグジットが実行されます。
(2019年3月24日時点)

その場合、
何の取り決めもないままに離脱してしまうといった
「合意なき離脱」が回避されるので、
このケースがベストシナリオになると予想できるでしょう。
(必ずしもそうではないとの見方も一部ある。)

なお、
ポンド円の為替市場は2019年1月3日のアップルショック以降、
昨年11月頃から続いた下降トレンドを脱却し、
緩やかな右肩上がりで推移しています。

市場ではこの「合意ありきの離脱」が
既に織り込まれている可能性がありますが、
今後行われるであろう離脱協定案の採決結果によっては
「ブレグジットの延期日変更」や
「合意なき離脱」などが起こる恐れもあるので、
離脱案否決による突然の市場急落には注意しておきたい所です。

最悪のシナリオは「合意なき離脱」

そして、市場が最も警戒している最悪のシナリオが「合意なき離脱」です。

合意なき離脱となる場合、
何の取り決めもないままにEUを離脱することとなり、
イギリスはブレグジットに関する移行期間を失い
即日でEU法が適用されなくなります。

なお、
もしも離脱協定案がイギリス議会に承認されなかった場合、
ブレグジットの延期期間は4月12日までに縮まるので、
合意なき離脱の可能性が高まる事となるでしょう。

これを受けて市場では
「合意なき離脱」の方向へ動くという観測が強まり、
ゴールドマンサックスのアナリストも
合意なき離脱が起こる確率を5%から15%へ引き上げました。

※参照:ロイター

もしも合意なき離脱となった場合、
関税同盟や単一市場からの即時撤退を余儀なくされる為、
イギリス国内をはじめ、世界の金融市場・為替市場においても
大きな影響がもたらされる事が想定されます。

さらに、
イギリス財務省は15年後となる2023年のイギリスの経済規模が
EUに残留した場合に比べて
9.3%縮小するといった見通しを報告しており、

イングランド銀行からも
「合意なき離脱によって最悪の場合ポンドの価値は25%急落し、
GDPが8%縮小する恐れがある」と警告されました。


合意なき離脱が反対に良い結果を生むかもしれない

一方で、
合意なき離脱が結果的に良い方向へ進むのではないかといった見解もあります。

ブレグジット後は合意のありなしに関わらず、
これまでのEUとの自由貿易協定(FTA)が無くなり、
世界貿易機関協定(WTO)のルールに従う事となります。

その場合、
税関検査の設置や税率の引き上げなどがあり、
国家収益の悪化が懸念されていましたが、
合意なき離脱の場合はアメリカとの自由貿易協定の締結に繋がるかもしれません。

アメリカのトランプ大統領は
元々メイ首相とEUとの間で交わされた合意案に否定的であった為、
「合意なき離脱」となれば結果的に
アメリカとの1:1の自由貿易協定の締結に近づくのではないか
といった見方もあります。

仮に「合意ありの離脱」で
メイ首相の提案する離脱案が可決された場合でも、
「結局事実上イギリスはEUに留まる事になるのではないか」
「ブレグジットは失敗するのではないか」
といった懸念は少なからずあるのではないでしょうか。

なので、
合意なき離脱が最悪のシナリオとなるかどうかすらも
不透明だと言えるでしょう。

結果的に、
合意なき離脱による混乱が限定的となる事だってあり得ますから。

長期に渡るEU離脱の延期の可能性も

次に考えられるのが、
もっと時間をかけた長期に渡るブレグジットの延期です。

今後またしても離脱協定案が議会に否決されるようであれば、
イギリス政府はEUに対して新たな離脱協定案を交渉したい
と申し出る可能性もありますし、
最悪の場合メイ首相が辞任して「新政権を組んでからEUと再交渉」
といったシナリオも考えられなくはないでしょう。

もし、
そのようにじっくりと時間をかけた
長期での再交渉が行われるようであれば、
イギリスは2019年5月23日に予定されている欧州議会選挙にも参加し、
引き続きEUへ残留する事となります。

そうなれば、
今後のブレグジットの先行きやマーケットの不透明感が
引き続き継続されていくのではないかとも考えられます。

イギリスによるEU離脱の撤回

最後に、
2度目の国民投票が実施され
「イギリスのEU離脱が撤回される」
といったシナリオも考えられます。

仮に2度目の国民投票が実施されるとなれば、
今回は「EU残留」に多く票を入れられる可能性が高いでしょう。


イギリス国民によるブレグジットの反対デモが勃発

3月23日、
イギリス議会の前では国民によるブレグジット反対の為の
大規模なデモが起こりました。

https://youtu.be/FWBqrgechRE

このデモは
「国民投票のやり直し」を求めるものであったとされ、
現状の政策に不満を持つ国民が
イギリスのロンドンを埋め尽くしました。

2016年に国民投票が行われてから
およそ3年が経とうとしている現在ですが、
現状イギリスがEUを離脱するのかはまだ不透明となっている為、
国民も遂にその痺れを切らし、
カンカンに怒っているのです。

なお、
国民の間で離脱撤回を求める声は益々広がり、
イギリス議会のサイトにて用意された
離脱撤回を求めるオンライン嘆願書には
100万件を超える署名が集まったとされています。

なので、
国民投票のやり直しの可能性も見えてきたのではないかとも考えられます。

もしも国民投票がやり直しされるとなると、
その結果次第でまたポンドが大きく揺らぐ可能性があるでしょう。

2016年の国民投票の際は、
多くの市場参加者が「EU残留」を予想していたものの、
結果は予想外の「EU離脱」
であった為に市場が暴落しました。

なので、
次に国民投票があった際には想定外となる
サプライズの結果に注意しておいた方が良さそうです。

ブレグジット(Brexit)のまとめ

2016年の国民投票以降、
国民をまっぷたつに分断してしまったブレグジット騒動。

このブレグジットが結果的に将来良い方向に向かうのか、
悪い方向に向かうのかはまだ誰にもわかりません。

最悪のシナリオに向かうと、
為替市場のみならず世界経済にも悪影響を及ぼす恐れもありますが、
反対に「そのリスクは限定的である」との見方もあり様々です。

合意なき離脱となってでも
とにかくEUから早く離脱した方が良いのか、
それともEUからの離脱自体を撤回するべきなのか、
とにかくどちらも一長一短があり、
誰もが納得する落としどころを見つけるのは相当困難であると言えます。

もしかすると、
ブレグジットをした結果「イギリスは賢かった」
と将来言われるようになるかもしれませんが、
今後も引き続き、
ブレグジット騒動が世界経済を揺るがす
要因となる事は間違い無いでしょう。

なので引き続き、
ポンドをはじめとする為替市場の乱高下には十分注意が必要です。

 

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4 件のコメント

  • 及川先生

    今回も長文に渡ってブレグジットについてわかりやすく解説してくれましただね、本当にありがとうございます、そしてお疲れ様です。

    いつも暴れグンのポンドが最近さらに活発しているのがブレグジット問題かかわっているとのことですね。

    これからのポンドシリーズの扱いは気を付けよう。

    次回のブロックも楽しみにしてます。
    明日のライブもたのしみです。

    • かえる様
      コメントありがとうございます。
      FXism事務局です。

      MR.Tの解説記事をご覧いただきありがとうございます。
      楽しんでいただけまして幸いです。

      次回の内容にもご期待ください。

  • FXism事務局様

    いつもお世話になります。

    今回、あらためて このコーナーの記事を拝読しましたが、
    これほどまでに要点を解りやすくまとめたものは
    初めてお見受けしました。

    単に、本ブログのコーナーの枠を超えていますね。

    これからも有益な情報提供をしていただけたら幸いです。

    とはいえ、このソースに甘えず、自分の視点でも調べてみようと
    いう気持ちになりました。
    ありがとうございました。

    • 自己改造中OP会員様
      コメントありがとうございます。
      FXism事務局です。

      お名前から察するにオフィシャルパートナー会員様でしょうか。
      いつもお世話になっております。

      本シリーズを通して、読者様のタメになったり
      気付きを得られるような価値体験を一つでも感じていただくことができたら幸いでございます。

      不定期連載ですが次回の内容もどうぞお楽しみに。

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