当記事では、
2015年1月15日に起こった「スイスフランショック」についてを解説し、
スイスフランショックが起こった原因や、
なぜスイスフランが為替相場に大きな影響をもたらしたのかまでを
Mr.tが紹介していきます。
当記事を最後まで読めば、
スイスフランショックの全てを理解し、
当時のチャートパターンを知った上で今後の対策が出来るようになります。
コンテンツ
2015年1月15日:スイスフランが約40%の歴史的高騰を記録する
2015年1月15日、
外国為替市場に突如異変が起き、
ユーロ(EUR)/スイスフラン(CHF)の相場はわずか數十分程度で
1ユーロ=1.20フランから0.86フランにまで急落しました。
(ユーロ安フラン高)
このように、
価格がしばらく安定し
「安全資産」とも考えられていたスイスフランが突然買われたのです。
そして、この相場の大混乱を
「スイスフランショック」と呼んでいます。
この日は強制ロスカットの嵐が世界中に渦巻き、
多くのトレーダーが破産の危機に陥ったことでしょう。
なんせこの衝撃の相場急変は、
今日の1ドル=120円が明日には86円に変わっているのと同じです。
その境遇を考えると、
今回のスイスフランショックがとても恐ろしかったという事は単純明快です。
では、なぜこのような突然の相場急変が起こってしまったのでしょうか?
その原因についてを以下より詳しく解説していきます。
スイスフランショックとは?
スイスフランショックとは、
スイス連邦の中央銀行である
「スイス国立銀行(スイス中央銀行)」の
政策変更に伴う為替介入の撤廃によって起こった歴史的大暴落の事です。
スイス中央銀行はスイスフランショックが起こるまでの約3年間、
景気対策の為に「1ユーロ=1.20フラン」を上限とする
無制限為替介入を行ってきました。
しかし、
それまで維持されてきた為替介入による政策は2015年より突如変更され、
1ユーロ=1.20フランの上限を撤廃したのです。
これによってスイスフランショックが起こりました。
しかしこれだけでの説明では全く不十分だと思うので、
スイスフランショックが起こった経緯についても詳しく見ていきましょう。
2011年:欧州債務危機によって安全資産であるスイスフラン買いが強まる
このスイスフランショックが起こる元々の原因を作ったのが
2011年の「欧州債務危機」に伴うスイスフランの高騰でした。
欧州債務危機とは、
ギリシャの財政問題を引き金に南米やユーロ圏へと債務危機が連鎖的に広まっていった経済危機の事であり、
「欧州ソブリン危機」または「ユーロ危機」とも呼ばれています。
債務不履行(デフォルト)が懸念されたギリシャ共和国
2008年、巨大金融機関であるリーマン・ブラザーズが
約60兆円という人類史上最大の負債を残して破綻し、
「リーマンショック」と呼ばれる世界同時金融危機が起こりました。
その影響から世界では不況の連鎖が広がり、
各国で財政赤字が膨らむ中、
ヨーロッパに位置するギリシャ共和国は政権交代に伴い前政権によって粉飾されていた莫大な財政赤字を明白にしました。
これによってギリシャの信用力は大きく低下し、
同国の債務不履行(デフォルト)が強く懸念される事となったのです。
ギリシャへの懸念が欧州諸国にも影響を与える事となる
ギリシャの信用低下問題によって、
同国の国債を大量に抱えていた欧州諸国の金融機関も同時に
その金融システムの崩壊が懸念されるようになりました。
何故なら、
ギリシャが吹っ飛べば国債を持っている
欧州の金融機関に大ダメージが与えられる恐れがあるからです。
よってギリシャを発端に、
リーマンショックで既に弱っていたユーロ圏主要国の財政懸念が
更に広がってしまうといったスパイラルに陥ってしまいました。
為替市場ではユーロを売って安全資産であるスイスフランを買う動きが強まる
このような欧州の経済危機やデフレを背景に、
為替市場ではユーロを売ってスイスフランを買うといった動きが強まりました。
スイスフランは安全資産として「有事の避難通貨」の性質を持っていた為、
リーマンショックや欧州債務危機
といった経済危機が起こる度に世界の投資家に買われる事となったのです。
よって、ユーロ/スイスフラン相場は
リーマンショック後の2008年9月から欧州債務危機が起こった
2011年までにかけておよそ40%の下落となりました。
2011年9月6日:スイス中央銀行が為替介入によるフランの上限制を導入
スイスでは医薬品や時計、
産業用機械などの輸出品目が多く、
それらを扱う輸出企業の大半が同国のGDPを生み出していた為に、
スイスにとってはフランの高騰が問題視されていました。
そこで、スイス中央銀行は2011年9月6日、
1ユーロ=1.20フランを上限とした無制限為替介入を行う事となったのです。
為替介入とは?
そもそも「為替介入」とは、
自国の通貨を安定させる為にその国の中央銀行が通貨の売買を行う事であり、
「外国為替市場介入」とも呼ばれています。
仮に自国通貨の高騰を抑えようとすれば、
中央銀行は売りの介入を行う事でそれを抑える事ができます。
スイス中銀はこの方法を使い、
ユーロに対してフランが高くなり過ぎないよう
「1ユーロ=1.20フラン」を上限とした為替介入を導入しました。
スイスフランは為替介入によって長期のレンジ相場を形成
スイス中銀は理論上フランを無限に発行する事が出来るので、
スイスフランを大量に刷って
フラン売りを介入させるという方法で相場を操縦し、
フランの価値の安定化を成功させたのです。
このスイス中銀による政策によって、
2011年9月6日から2015年1月15日までにかけて
長期のレンジ相場が形成され、
絶対に1.20フランを下抜けする事が無い
魔法のようなサポートラインが出現したのです。
過去3年間維持していた政策を断念したスイス中央銀行
しかし、
その介入による為替相場の安定化も永遠には続かず、
2015年1月15日にスイス中銀はその為替介入を撤廃する事を突然発表しました。
スイス中央銀行による無限為替介入の限界
2015年、
為替市場はユーロ圏の景気後退やデフレを背景に、
欧州中央銀行(ECB)が国債を買い入れてユーロを供給するといった
「量的緩和」の観測が強まっていました。
(その後同年22日に実施が決定される)
これによってユーロ安/フラン高の動きは段々と強まり、
スイス中銀も不安定な通貨を買い続けていく
この政策は持続不可能であると考えたのです。
そもそも「自由な資本移動・為替相場の安定・独立した金融政策」
というのは3つ同時に成立させる事ができません。
これを「国際金融のトリレンマ」といいます。
つまり、スイスが為替を固定すれば、
金融政策の自由を諦めざるを得なかったのです。
そして、
遂にスイス中銀はフランの上限撤廃を発表しました。
スイスフランが大高騰を起こし相場は
「フラッシュクラッシュ」となる
これによって絶対に下抜けする事の無いと思われていた
1ユーロ=1.20フランのサポートラインは見事にブレイクされ、
一気に0.85フランに急落しました。
言い換えると、スイスフランの大暴騰です。
なお、一気に価格が底抜けしたユーロ/スイスフランでしたが、
1月15日は底値となる0.86フランを記録した後すぐに10%以上回復し、
終値は0.97フラン、
そして後日の16日には1.02フランまで値を戻しました。
このように、
相場が瞬間的に急落する事を
「フラッシュクラッシュ」と呼び、
急落後は瞬間的に反発する事が特徴的です。
また、
米ドル/フランの相場は急落後
わずか2ヶ月以内で+20%以上回復し、
フランショック前の水準までほぼ全戻ししました。
なのでこういったケースだと、
急落後の反動を狙った「逆張り」のロングで
利益を獲得できるようなチャンスもあったと言えます。
スイスフランショックから得た今後の教訓
では、今回のスイスフランショックから得られた今後の為の教訓を紹介していきます。
突然の急落が悲惨な追証地獄となることもある
このスイスフランショックによって、
世界を代表する金融機関が莫大な損失を被り、
破綻するFX業者も続出しました。
特にFXの取引システムを提供するFXCM社は約260億円の損失、
そして世界最大の為替ディーラーである
シティグループも約170億円を超える巨額の損失となったのです。
個人投資家の多くも追証によって多額の損失を被る
そしてその損失被害は個人投資家にも広がり、
追証による多額の追加証拠金がトレーダーを襲いました。
そもそも海外のFX業者では
「ゼロカットシステム」が導入されている事が多いですが、
国内の業者であれば証拠金維持率を下回れば
追加で証拠金を入金しなければなりません。
そして中には「大きな借金を背負ってしまって自己破産した」
という人もいたようなので、
やはり相場は何が起こるか分かりません。
突然の急落によって「ロスカットがされない」という恐怖
基本的にFXでは強制ロスカットのシステムがある為、
自身が借金を背負ってしまう程に損失を被る事はあまりありません。
しかし、
今回のフランショックによる相場の急変は
わずか一瞬にして起こった出来事であり、
想定上のロスカット金額と実際のロスカット金額との乖離が起こってしまっていました。
なので、
損切りの注文も約定されないまま
遥かに急落したレートでロスカットされてしまう
といった事態を起こしてしまったのです。
なお、こうした値動きを「値飛び」といいます。
こういった事例を踏まえ、
予め十分な証拠金を蓄えておき、
その通貨ぺアと相関性の低い通貨をリスクヘッジとして保有しておくなど、
普段からの対策を心がけておきましょう。
相場操縦は後に大きな市場の混乱を招く恐れがあるということ
スイス中銀による為替介入は約3年間為替相場を安定させましたが、
介入撤廃後はその相場は崩れ落ち、
元の水準へと戻すまでに3年の期間を費やす事となりました。
為替介入によって市場へ紙幣をばら撒けば、
その場しのぎで固定相場を維持する事は出来ますが、
市場に通貨が大量に出回る事となるので、
その代償として大規模な金融緩和を招き入れる事となります。
つまり、
為替の安定化を半ば強引に図るのであれば、
独立した金融政策は諦めなければなりません。
なので一時的な政策にも限界があり、
国際金融政策の観点においては
全てを同時に実現させる事はできないのです。
なお、
2011年の為替介入以降ユーロ/フランは
長期のレンジ相場を形成しましたが、
2013年以後は緩やかな下落トレンドが続きました。
なので、
ここで為替介入による上昇を待ち、
ひたすら無限ナンピンをしてポジションを持っていたとすれば、
その後の大暴落でかなりの損失被害に遭った事でしょう。
スイスフランショックによって
多くの金融機関や個人トレーダーが損失を被った事は上述しましたが、
人為的な相場操縦が市場に大きな被害と混乱をもたらすという事は、
今回の事例か十分に理解出来るかと思います。
スイスフランショックのまとめ
以上、スイスフランショックが起こった経緯をまとめると以下の通りです。
- 欧州債務危機によってスイスフランが買われる動きが強まる
- スイス中央銀行が無制限為替介入によるフランの上限性を導入
- 1ユーロ=1.20フランの上限が撤退されて相場が大混乱となる
ユーロ/スイスフラン相場はスイス中銀の為替介入によって
一時は1.20フランを超えない安定的な相場を形成していましたが、
その政策も限界となり撤廃され、
結果的に多くの金融機関や個人トレーダーに
莫大な損失を与える事態となってしまいました。
また、今回の事例のように、
相場が突然急落して
想定外の追証が発生する可能性がある事も忘れてはなりません。
なので、
普段からレバレッジによるリスクの許容度を認識しておき、
重要な経済指標発表前のポジション保持には特に気をつけるようにしておきましょう。
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