FXカバーディーラーの意志決定プロセス
トレーダー(個人投資家)側はスプレッドが狭いほど有利
あたりまえのことですが、FXでトレードをするにあたってはスプレッドは狭いほどいいですね。
FX会社を選ぶ基準ではおそらく最重要項目でしょう。
これがどういうことなのか、念のため確認しておきましょう。
FX会社の売買画面はだいたい次のようになっています。
画面の右側の数値をASK(またはOFFER)といい、買い注文を出すと約定するレートです。
画面の左側の数値をBIDといい、売り注文を出すと約定するレートです。
これは、今あなたが注文を出したらこのレートで約定しますよ、という情報をFX会社が提示しています。
各社でツールはまちまちですが、この2つのレートが常時提示されていることと、
右がASKで左がBIDというのはおそらく世界共通だと思います。
このASKとBIDの差(表では2.1銭)をスプレッドといいます。
当然ですが、常にBIDよりASKが大きなレートになります。
もしそうでなくて BID > ASK であれば、
買いと売りを同時に出せばスプレッドの分だけ顧客に必ず利益が出てしまい、
必勝法ができてしまいますので、そういうことはありません。
スプレッドによってどれだけ利益にインパクトがあるか
レート変動とスプレッドが利益に与える影響(ドル/円 1万通貨の場合)
スプレッド | 為替レート自体の変動→ | |||
↓(PIP) | 0.01円 | 0.05円 | 0.1円 | 1円 |
0.0 | 100円 | 500円 | 1000円 | 10000円 |
0.2 | 80円 | 480円 | 980円 | 9980円 |
0.4 | 60円 | 460円 | 960円 | 9960円 |
0.6 | 40円 | 440円 | 940円 | 9940円 |
0.8 | 20円 | 420円 | 920円 | 9920円 |
1.0 | 0円 | 400円 | 900円 | 9900円 |
※100PIP=1円
上記の表を見ると、短期売買指向の顧客ほどスプレッドが重要であることがよくわかると思います。
スプレッドが0PIPと1PIPの場合で比べると、
1円(100PIP)の動きを狙う中長期トレードなら利益の1%が失われるだけで済みますが、
0.05円(5PIP)の動きを狙う短期売買なら利益の20%が失われてしまいます。
損失になってロスカットする場合もスプレッド分の支払いは発生するので、
短期売買であるほど、取引頻度が高いほどスプレッドが重要であることがわかると思います。
▶︎余談
これは予断となりますが、この時は日韓ワールドカップの時期でしたが
FX自体が日本で始まったばかりなので、スプレッドが非常に広かったのを覚えています。
売買手数料まで取られていたので、それも考慮すると10pip程度動かないと利益にならない状態でした。
短期売買は不可能な水準です。
それでも、FXの登場前は比較対象が銀行の外貨預金だったので、
それに比べればスプレッドは狭いしレバレッジもかけられるし、
「すごいサービスが出てきたなあ」と感心したのを覚えています。今となってはかわいいものです。
顧客注文を次々と受けるディーラー(FX会社)側の損益
顧客の損益はレート変化とスプレッドで決まる単純なものですが、
では顧客とは逆にディーラー側の損益がどうなるかを見てみます。
ディーラーは多数の顧客を抱えていますし、ドル/円の顧客取引が1日2万件に達しているものがありました。
これは、平均して4秒に1回注文が入ることになります。
注文の多い時間帯では1~2秒に1回になるので、ディーラー業務を手動で行うのは非常に忙しくなります。
レートの動きだけでなく、顧客の注文動向も頭に入れて意思決定しなければいけません!
例えば、以下のような具合に次々に状況が変化します。
ディーラーの立場で発生する注文の例
10:00:00 | 顧客Aから10万ドルの買 |
10:00:00 | 顧客Bから10万ドルの売 |
10:00:04 | 顧客Cから20万ドルの買 |
10:00:08 | 顧客Dから10万ドルの買 |
10:00:10 | 顧客Eから30万ドルの売 |
全くレートが動かない状態でシミュレートすると――
話をシンプルにするために、
- 全くレートが動かない(ASK=108.00, BID=107.99)
- インターバンク市場のことはまだ考慮しない
と仮定します。
するとディーラーの損益状況は以下のようになります。
時刻 | 注文 | 約定レート | 未カバー数量 | ディーラーの確定利益 |
10:00:00 | 顧客Aから10万ドルの買 | 108.00 | +10万 | – |
10:00:00 | 顧客Bから10万ドルの売 | 107.99 | 0 | 1000円 |
10:00:04 | 顧客Cから20万ドルの買 | 108.00 | +20万 | – |
10:00:08 | 顧客Dから10万ドルの買 | 108.00 | +30万 | – |
10:00:10 | 顧客Eから30万ドルの売 | 107.99 | 0 | 3000円 |
「未カバー数量」とは、顧客からの注文を受けて約定させたあと、
まだインターバンク市場に流していない数量ということです。
ディーラーがマーケットに対して取っているポジションの量ともいえます。
この例では、同一の時刻「10:00:00」に別々の顧客から反対向きの注文を2つ受けたので、
スプレッドの分だけが丸ごとディーラーの利益になります。ここは重要なポイントです。
顧客AとBはもちろんお互いのことを全く知らず、
提示されているASKとBIDレートに注文を出しただけですが、
ディーラー側はその2つの注文を相殺して差額のスプレッドを利益とすることができるのです。
もちろん、現実には「レートが全く動かない」ということはないですし、
顧客AとBのように反対向きの注文で潰しあってくれず
同一方向の注文が次々とやってきてポジションが積みあがることも多いので非現実的な仮定ではありますが、
スプレッドがディーラーの利益の源泉であることは感覚としてつかめたのではないでしょうか。
これだけだとディーラーは寝ているだけで儲かり続けるような印象がありますが、
それは「レートが動かない」というやや無理のある仮定をおいていたからです。
もちろん現実にはそうではなく、レートが動くときには機敏な判断が求められます。
コメントを残す