当記事では、2019年1月3日に起こった「アップル・ショック」についてミスターTが解説し、
アップルショックが起こった原因や、
なぜそれが為替相場に大きな影響をもたらしたのかまでも併せて紹介していきます。
当記事を最後まで読めば、アップルショックについてを十分理解し、
当時のチャートパターンを知った上で今後の対策なども出来るようになります。
コンテンツ
2018年3月ぶりに円が急伸し一時1ドル=104円台後半に
2019年1月3日の新年早々、外国為替市場は急な円高ドル安に見舞われ、
わずか数分の間に1ドル=104円台後半を記録した後、
すぐに107円台まで回復するという「フラッシュクラッシュ(瞬間的急落)」が起きました。
出典:TradingView
なお、ドル円相場が1ドル=104円台となるのは昨年の2018年3月26日以来の事であり、
9ヶ月ぶりの円高水準にも達しました。
出典:TradingView
3日のドル円相場は、日本の正月休みによる薄商いの影響もあり
「円高進行による強制ロスカット」が連鎖的に発生してしまった事が考えられるのですが、
この急激な円高を起こしたきっかけは一体何だったのでしょうか?
それは、米Apple社の業績予想の大幅な下方修正による
「アップル・ショック」によって引き起こされたものでした。
年始の為替市場を混乱させた「アップル・ショック」とは?
2019年1月2日、米Apple社の最高経営責任者である
ティム・クック氏によるプレスリリースが発表され、
そこで「12月29日を末日とするAppleの2019年度第1四半期の業績予想を下方修正する」
といった旨が公表されました。
出典:Apple
この同社による業績の下方修正はなんと2002年以来であり異例の事態となりましたが、
その主な修正内容は以下の通りでした。
- 売上高として約840億ドル
- 売上総利益率として38%
- 営業費用として約87億ドル
- その他の収入/(費用)として約5億5,000万ドル
- 税率約16.5%(個別項目控除前)
元々Appleは2019年度第一四半期の業績予想を「売上高として890億ドルから930億ドル」
そして「売上総利益率として38%から38.5%」としていたのですが、
上記のように売上高の見込みは840億ドルに引き下げられ、
売上総利益率も概ね38%と修正されています。
これが「アップル・ショック」となり、
1月3日のApple(AAPL)の株価は約10%も暴落し、
一時は2017年7月以来となる140ドル台前半にまで一気に下落したのです。
出典:TradingView
今回アップル・ショックが起こった大きな2つの要因
今回Apple社が売上高予想を下方修正するに至り、
その様々な要因がプレスリリースにて述べられていたのですが、
その中でも特に影響が大きかったとされた要因は以下2点です。
- 中華圏を始めとする新興市場の経済の減速
- 先進国市場でのiPhoneの買い替え需要の減少
1.中華圏を始めとする新興市場での経済の減速
1つ目の大きな要因として
「新興市場の経済の減速」がプレスリリースでも大きく言及されていましたが、
特に業績予想に対する売上高不足の大半が中華圏(香港や台湾を含む)での販売台数減少によるものでした。
中国経済は2018年後半より著しい減速となっているのですが、
2018年のGDP(国内総生産)は6.6%と2010年以降8年連続での低迷となり、
その数値は1990年以来、28年ぶりとなる低水準となりました。
出典:世界経済のネタ帳
中国は世界の名目GDPランキングでアメリカに次ぐ第二位の国として位置していますが、
2010年以降そのGDPは右肩下がりの推移となり、
それに伴いApple社の販売するiPhoneの消費需要衰退も顕著に表れてしまったのです。
なお、実際に中華圏におけるApple製品の売上高の減少は、
世界全体の売上高の前年同期比で減少幅の100%を超えたとも発表されています。
このように、
中華圏の経済衰退がApple社の予測以上に同社へ悪影響をもたらすこととなり、
それが今回の業績下方修正に至る大きなファクターとなりました。
2.先進国でのiPhoneの買い替え需要の減少
中華圏を主とする新興市場での販売台数の伸び悩みが
今回の売上減少の大きな理由となったわけですが、
同時に先進国市場においてもiPhoneを買い替えする人の数が
Apple社の予想を遥かに下回ったと発表されました。
実際に日本でも2018年10月に販売開始された
新型iPhoneの「iPhone XR」は歴史的な販売不振となり、
著名アナリストによるレポートでも
iPhoneの出荷台数は以前の予測から-20%の下方修正がなされました。
そもそも新型のiPhoneと言えば、
発売後の数時間で売り切れになり、
発売日にそれを入手する事はほぼ困難とされていたにも関わらず、
iPhone XRは発売日当日にも売り切れにはならず、
発売日当日でも入手する事が可能となっていました。
このように、
iPhoneユーザーが自身の端末を「アップデート」する動きは徐々に減少しているのです。
iPhone以外のサービスカテゴリは前年同期比で増加
一方、1月29日に発表された2019年度第一四半期の業績発表を見ると、
Apple社のiPhone以外のカテゴリーである「Mac・iPad・ウェアラブル(Apple Watch)・サービス」
などは前年同期比で約19%増大したとされています。
特にApple Watchなどのウェアラブルやホーム、
アクセサリーの売上高は前年同期比で約33%増加した73億ドルと大幅な増益となり、
他にもMacの売上高が9%増の74億ドル、そしてiPadの売上高が17%増の67億ドルとなりました。
出典:Apple
しかし、売上の大部分を占めるiPhoneの売上だけは不振となっており、
前年同期比の約611億ドルから15%減となる約520億ドルへと縮小しています。
なぜApple社の業績が為替相場にも響くのか
では、そもそもなぜアップルという一企業の業績が
こんなにも世界の株式市場や為替相場に影響するのかについてですが、
それは主に以下の2つの理由が考えられます。
- Apple社は世界の株価指数に影響を与える規模の企業であること
- Apple社はファブレスメーカーである為にその業績不振は世界中の関連企業にもダメージが及ぶこと
Apple社は世界の株価指数に影響を与える規模の企業である
Apple社の時価総額は2018年12月時点でおよそ7,500億ドルとなっており、
マイクロソフトに次ぐ世界第二位の時価総額を誇ります。
一時は史上初となる時価総額1兆ドル超えも記録したApple社ですが、
同社はアメリカを代表する企業として「S&P500」や「NASDAQ総合指数」「ダウ平均株価」などといった
米国の代表的な株価指数に組み込まれています。
よって、Apple社の業績不振は同社の株価や株価指数の下落要因となり、
それが米国経済や世界経済の不安にも繋がるのです。
そして、米国を始めとする世界経済の不安を受けた際、
米ドルが売られて安全資産である「円」が買われる動きが強まるというわけです。
(※もちろん為替市場には他にも様々な変動要因があるので、
必ずしもそこに相関性があるとは限りません。)
Apple社はファブレスメーカーである為、その業績不振は世界の関連企業にもダメージが及ぶ
なお、Apple社は自社で工場を持たない「ファブレスメーカー」である為、
自社製品を生産する為にたくさんのハイテク部品を「外部の部品メーカー」に発注しています。
つまり、Apple社の業績不振によって同社製品の生産数が落ちるとすれば、
部品を受注している部品メーカーの業績にも
大きなダメージが及ぶ可能性があるという事になるのです。
なお、これらの企業を「アップル関連銘柄」と言ったりもしますが、
日本にもApple社に関連した企業はたくさん存在しています。
米部品メーカーのルメンタムは業績見通しを下方修正
実際にiPhoneの最新モデル向けの部品を製造している米ルメンタム社は、
昨年に「大口顧客からの発注の大幅削減」を要請され、
同社の業績見通しを下方修正したと発表しました。
この「大口顧客」について、
同社から正式な企業名は明かされませんでしたが、
市場はAppleだと断定し、
結果的にAppleの業績不振が示唆される形となりました。
これによってルメンタム社の売上高予想は約4億〜4.3億ドルから約3.5億ドルに下方修正され、
その利益予想は3割近い引き下げとなりました。
<11月12日には30%を超える下落となったルメンタム(LITE)の株価>
出典:TradingView
このように、Apple社の業績不振は他の関連銘柄にも大きく影響してしまうのです。
アップルショックを受け「フラッシュクラッシュ」となったドル円相場
Apple社の業績不振の影響によって、
外国為替市場では投資家のリスクオフ(リスク回避)の為に安全資産である円が買われる(ドル売り円買い)傾向となり、
一気に1ドル=104円代まで急落しました。
出典:TradingView
なお、この日は日本時間で1月3日の午前7時30分という、
日本ではお正月の真っ只中の時間帯でした。
なので、今回のケースは日本勢が薄商いであるタイミングを海外勢、
もしくは大口のヘッジファンドに狙われたという可能性が大いに考えられます。
流動性の低い薄商いの中で大量の売り注文が殺到すると、
アルゴリズムによる高速取引のシステムが発動し、
ロスカットが連鎖的に発生して一気に急落といった流れとなってしまいますから。
その結果、円高による大量のロスカットが連鎖的に発生する
「デッドスパイラル」にハマってしまうのです。
「朝起きてチャートを見た時には全てが終わっていた。」
といったトレーダーさんも今回多かったのではないでしょうか・・
このように、
相場が瞬間的に急落する事を「フラッシュクラッシュ」と呼んでいます。
ドル円相場の下落後は急速に109円台まで回復
しかし、ドル円相場は1ドル=104円台まで下げた後、
15分も経たない内にすぐに107円台まで回復し、
さらに5日後の1月8日には一気に109円台までほぼ全戻ししました。
出典:TradingView
なお、他のクロス円取引における
「豪ドル/日本円」、「ユーロ/日本円」の取引ペアを見ても概ね同じ動きとなっており、
急落後瞬間的に価格を戻す「フラッシュクラッシュ」が同様に起きていた事が分かります。
出典:TradingView
なのでこのようなケースだと、
急落後の反動を狙った「逆張り」のロングで利益を獲得できるようなチャンスも十分にあったと言えます。
今回起こったフラッシュクラッシュのケーススタディ
なお、今回のアップルショックの他にも、
このような「フラッシュクラッシュ」は過去にもいくつか起こっています。
2015年1月に起きたスイスフランショック
2015年1月15日、
スイス国立銀行の政策変更によってスイスフランは大幅な価格変動を起こしました。
スイス国立銀行ではスイスフランの上昇を抑える為に為替介入を過去三年間に渡って導入していましたが、
その介入を撤廃した事によってユーロ/フランの相場は1.2フランから一気に0.9フラン後半まで下落したのです。
出典:TradingView
なお、スイスフランの急落後はわずか2日間で1.02フランまで回復し(+5%)、
その約1ヶ月後となる2月19日には1.07フランまで上昇、
そして約1年後となる2016年の2月には1.11フランまで回復しました。
また、米ドル/フラン相場では急落後2ヶ月以内に+20%以上回復しています。
出典:TradingView
2010年5月に起きたダウ平均株価のフラッシュクラッシュ
2010年5月6日、アメリカのダウ平均株価はわずか数分で約10%下落しましたが、
これが最初に「フラッシュクラッシュ」と呼ばれる急落となりました。
出典:TradingView
この日はダウ平均株価における市場最大の下落幅を記録したのですが、
下落後は長い下ヒゲが描かれ、
6日の安値から3営業日後の10日には+10%となる10,835ドルまで一気に戻しました。
この下落の理由は、
複数の要因が重なっているとされている為に未だ明らかにはなっていないものの、
プログラムによる「高速取引」が高いボラティリティを懸念し、
売り注文を加速させた事が原因ではないかとも指摘されています。
このように、
今回のアップルショック以外にも過去に様々な「フラッシュクラッシュ」が起きていたのです。
アップルショックのまとめ
以上、
アップルショックとは中国経済の衰退に伴い米Apple社の業績予想の引き下げが引き金となって起こった急落でした。
そしてこのような「フラッシュクラッシュ」は過去に何度も起こっており、
アルゴリズムによる高速取引が台頭するようになった為替市場において、
今後もそれが起こり得る可能性はゼロとは言えません。
なので、「わずか数分でいきなり数円動くこともある」
といった事も想定しておかなければならないでしょう。
連休日は市場が急変するリスクに注意が必要
今回のアップルショックの教訓を活かし、
自身がロスカットによる強制退場となってしまう事態を防ぐ為にも、
- FX口座には事前に余裕を持って資金を入金して証拠金を蓄えておくこと
- 商いの薄い連休のトレードはなるべく控えておくこと
といった点を十分考慮しておくべきでしょう。
なお、日本では2019年4月27日〜5月6日に大型の10連休も控えている為、
再び今回のようなフラッシュクラッシュが起こり得る可能性も考えられます。
なので、連休のトレードには特に注意しておき、
保有ポジションの分散や、
十分な証拠金の維持などもしっかり心掛けておきましょう。
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富山のK氏のトレードはいつ公開されるのですか? そこをかなり最初から期待してたのです