第5話「Public Bias」

酒ばかり飲んでいても仕方がないので自称一般投資家(現実はプータロー)の私は再起を図った。

とりあえず1000万円をFX口座に送金した。

私はカネのかかる趣味は無い、服も車も然程興味がない

ギャンブルは(FXは全く違うが)あまり関心のない世間から見れば似たようなモンを相手にしているのでやりたいという欲求を持ったことも無い

私が自分のために使うのは酒代くらいなので、給料が比較的高い金融業界で10年仕事をしてきたため貯金は少々あった

とはいえ無限ではない、1000万円の損失は結構痛かったが、プータローだし業界に戻って仕事をする気も無かったのでFX取引以外の選択肢を選ぶ気など全くなかった

 

数日酒を飲み、二日酔いも何日かあった

会社を売り飛ばし、取引で痛手を被ったが、久し振りに良い酒をしこたま飲んだので、遅い退職祝いの様なモノと割り切り

私は再起を図った

まず、落ち着いて一か月を振り返った

準備が完璧では無かった

FX業者の売買動向を見るまでは良かったが、勝手が違うのは見ているデータが違うので当然想定できた筈だ、その場合どの様な行動を取るべきか予め考えておくべきだった。

色々考えたが恥かしい話、私はそれほど自分を信用できなかった

想定外の事象が起きた際に冷静さを保つ事が必要というが、当時の私は何百万も損して冷静さを保つなど常人には無理だ、まして自分にはできる筈もないと考えていた。

「冷静さを保て」とは、よく投資の本に書いてある事だが、その時の私は「冷静さを保てではなく、保つ方法を教えろよ」と考えていた。

それほど私を信用していない私は

冷静さを保つため何百万円も損をする事の無い様にしようと考えた。

今思えば、FXの様なレバレッジドトレードを行って口座資産の20%や30%の損失を回避するのは本当に難しく、「冷静さを保つ」方が幾らか楽に思えるが、当時の私はまだ甘く考えていた。

だが、この損する事の無い様にしようという非常に甘い考えが、後に私のロジックの片翼を完成に導く。

 

これも今思えばだが、私は相当運がいい様だ

 

とにかく、顧客取引を見れていたFX業者時代は売買動向をシッカリ把握でき、一社しか見てないのでブレる事も無く有効なポジションを取れていたし、間違っていたら取引を降りる事に何の躊躇も無かった

(実はそれだけでは無かった、トレンドがシッカリ出ていたという事を後で気が付く)

ブレない一般投資家売買動向を知る必要がある。そう考えた

 

元部下達に定期的に送らせるか?

いや無理だ、負担は掛けられないし、もうオーナーが違う、上役に許可を得るだけでも負担だろう。

 

必要は発明の母という

人は本当に欲した時、その人の持てる能力が試される。

 

私は気が付いた

 

当時でも私は業界で10年以上メシを食ってきた人間だった。

実は、FX業界はまだ若い業界で、日本では1996年の日本版金融ビックバンによって解禁された取引だった、いまは違うのかもしれないが、当時のFX業界は物凄く狭い業界で、業者間での人の移動が頻繁にあり、横のつながりは結構強い業界だった

私は海外FX業者だったが、日本のFX業者とも友好的な関係を保っていたし、まだ若いFX業界では10年というのは黎明期から業界に居た人達より若干短い程度のキャリアだった、また、海外FXの世界で一定の取引高を造った人間として業界の知り合いは結構多かった。

 

口座に資金は送ったが、とりあえず取引を控え、私は日本だろうが外国だろうがバンバン業界人に会いに行った

 

皆、勘違いしている

 

電話でアポを取り会いに行くと、私が就職活動でアポッたと思っているではないか・・・

 

「アホか、腐っても元CEOだぞ、いくら大手でもお前のところで営業部長やマネージャーになる位なら、また立ち上げるよ、その時アレだったら雇ってやってもいいぞ、じゃあな」

と、会った瞬間から下に見てくる様な奴にブチ切れてしまい、自身の評判を落とすという失敗もあった…

 

真のアポった目的は「売買動向を教えてもらう事はできないか?」だった

 

そう、私は当時、誰も造った事の無いモノを作ってやろうと思った

リテールFXポジションインデックス(世界中の一般投資家売買動向平均)を、だ

 

皆、いい返事はしない

(だろうな、よし、奥の手を出そう)

「おい、俺が入金して取引する、毎月最低0.5ヤード(5000Lot)はやってやる」

「お前、他の会社にもこの話持って行くんだろ?そのカネと取引ボリューム大丈夫なのか?」

「ダメな場合は俺じゃなく、他のお客を紹介する」

「なるほど、IBか?」

「いやIBじゃない、その代わり売買動向の情報を出せ、別に俺にだけこっそり教える必要は無いWebサイトに毎日アップしろよ、既にサービスとしてやっている業者も多いぞ」

 

IB(イントロデューシング・ブローカー)は顧客を紹介する事により手数料バックを受け取る立場の人を指す。

 

皆、乗ってきた

 

前半戦で散々説明してきたが、FX業者で顧客を獲得するのには多額の広告費が掛かる

その顧客(しかも取引高の大きい)を広告料無しで紹介すると言っているのだ、しかも奴らが既に持っていて、公開しても何ら問題ないデータをWebサイトに公開するだけで

私は先月まで同じ穴のムジナだった、一番かゆい所をかいてやり、欲しいモノを手に入れた

 

リテールFXポジションインデックス(世界中の一般投資家売買動向平均)

これは大袈裟な話で理想形だ

要は、今だから言えるが

私はハッタリをカマしたのだった

 

私は解っていた、大手数社の動向を掴めればいい

大手数社を見れれば全体の推移と似たような傾向になる筈だ(当時まだ売買動向を公表していた業者は極端に少なかった)

 

この計画の実現のため、プータローの私はFX業界を辞めてまで、顧客をFX業者に紹介する仕事を暫く頑張った・・・

引退して間もなかった私はまだ現役と変わらない営業力を持っていたので何とかなったが、今やれと言われてもできないと思う

頁の関係上、これ以上は書かないが、結構すったもんだあって苦労したが、方々のご協力もあって、何とか私の理想とする売買動向を把握する事に成功する。

更に、私は各FX業者から送られてくるデータを元にある計算式を追加した。

ここは残念ながらブラックボックスとなる。

概要は、極力正確(絶対値ではない、勿論チャレンジしたが絶対値の把握は不可能だった)な売買動向の傾向を把握するため、取引高の異なる各業者の売買動向を取引高に応じた加重平均となるよう、私は独自のデータとある計算式を用いて、A社で増えている時にB社で減っていようが私が迷うことの無い様に「取引高に応じた極力正確な売買動向」の算出に着手し、数か月の検証の後、リテールFXポジションインデックス改め、プロトタイプの   Public Bias を完成させた。

今ではPublic Bias(パブリックバイアス)として一部トレーダーに公開しているモノの原型が完成した瞬間だった

この、プロトタイプPublic Biasは抜群の切れ味となり、私のトレードに大きな変革と自信を与えた。

弱小FX業者の売買動向よりも何倍も正確に一般投資家の売買動向を把握する事に成功した私はいよいよ取引を再開する事にした。

そんな自信を取り戻しつつあった私だが、実は心配事がもう一つあった

それは

ファンメンタルズと逆行したポジション

この定義だ、明確なモノはいい

だが、そこまで明確なモノはそう多くない

その、ファンダメンタルズの方向を私自身が判断してしまっていないか?

という事だ、充分あり得ると思った。

 

最初はファンダメンタルズなど気にもしていなかった

なので「素人目」でも明らかなものにしか反応しないで済んだ

だが、既にデモ口座に本気で取り組み始めてから一年近くが経っていたし、私は業界人のため相場関係の言語に全くアレルギーがない、なので金融関連のニュースもスラスラ読め、頭に入ってしまう。

その結果、ちょっとアナリストの様に相場情勢を見る様になってしまっていた

(なんか違うよな、いっそファンダメンタルズを無視して一般投資家のポジションが偏り始めたら逆のポジションを持ったらどうか?)

そう思った私は実弾で検証を始めた。

ただ検証のため、口座をもう一つ開設して1000万円のうち100万円だけを使って検証に充てる事にし、しばらくその100万円の口座のみで検証を行った。

結果、FX業者時代デモ口座でトントンだった勝率が、たった2週間の検証ではあるが7割の勝率となった

だが、次の2週間では勝率が4割程度になった

次の2週間は勝率5割、その次の2週間は勝率8割になった

勝率はブレている、だが 驚くべきことに、検証口座の100万円は250万円になっていた

私は途中でなんとなく気が付き始めていた

相場の変動が大きい時に勝率が上がっている、相場変動が小さいと勝率が極端に下がる

(ああ、私のお客さん達は一人を除いて逆だったな…)

FX業者時代のお客は相場変動が小さいときにコツコツ貯めた利益を大変動で全て失うというのがお決まりのパターンだった

 

私はルールの変更に着手する必要性を感じた

ファンダメンタルズを全く無視する必要は無い

だが、それでポジションの方向を決める事もまた危険だ

ファンダメンタルズの方向を読み、決めているのが「自分」だしな

この「自分」… 一番信用ならないんじゃないか…?

そう、デビュー戦の惨敗はこんなところでその効能を発揮した。

私は、知らず知らずのうちに自分の「相場観」というモノを持ち、それに寄り掛かるかのように方向を決め、Public Biasと私が一致する事を期待してしまっていたのではないか?

お恥ずかしい話、一か月前には自分を「天才じゃないか?」と勘違いし、会社まで売っぱらい、その後の取引でドツボにハマったマヌケ(だった)私は

翌月には(手痛い惨敗のおかげで)自分の腕前と相場観に入れ込まない、かなり謙虚な人間になっていた。

「男子、三日会わざれば刮目して見よ」とはよく言ったモノだ、昔の人は偉い。

とにかくデビュー戦での惨敗から多くを学んだ、まだ飲み代を足すと1000万円失い中の私だが、なんとなく希望が見えてきたのを感じた。

私はある「賭け」に出る。

大事なのは、相場の変動幅と一般投資家ポジションの変動。

この二つでは無いだろうか…?

そして、私はこれに限っては明確に気が付いていた

検証口座をスタートしてから損益を毎日エクセルで折れ線グラフにしていた。

そのグラフから読み取れるものは、大勝ち、に対し負け若しくは小勝ちが一定のサイクルで交互に起きている、負けと小勝ちが続いた後に大勝ちが来ていた

これは単純にギャンブルなどの確率の話ではない。

私が大勝ちしている時というのは、その9割以上が相場が大きく動いた時だ

逆に負け若しくは小勝ちの時は、その9割以上が相場の変動が小さい時だった

念のため再確認しておく

私はこの時、必ず一般投資家の逆のポジションを取っている

一般投資家の口座パフォーマンスがどうなっているのかは想像に容易い筈だ

何を言いたいのかというと、相場の変動は小幅なモノが続くと大きな動きが必ず入るという事だ!

ここで私は、一般投資家のポジションが相場の動きと逆行し続けている際に、私の取引が負け若しくは小勝ちが続いて

かつ、相場変動がシッカリ縮小し続けている事を確認できた場合、ポジションサイズを大きくして一般投資家の逆にポジションを取った。

 

結果は…ボロ勝ち。

 

直ぐに検証口座は500万円を超えた。

勝率というのは4割~8割で相変わらず結構ブレる、だが資産曲線のブレは良い方にブレる事が多く、結構見とれてしまう資産曲線となってきた。

勿論、相場環境も良かったのだと思う

前に触れたがこの2016年は激しい一年だった。

 

私の取引ルールに変更と追加があった

① イベントの結果ひとつでポジションを動かす必要の無いポジションボリューム(但し③の場合は除く)

② 必ず一般投資家の逆のポジションを取る

ファンダメンタルズと顧客ポジションが逆行している時にお客の逆のポジションを取る

③ 小幅な相場変動が続き、一般投資家のポジションの逆行が大きな時はポジションサイズを大きくする

このため、③でボリュームを大きくした際は引けまで待たずにロスカットのルールが必要となった。

この当時私は50pipsというロスカット幅を用いた。

 

ルールが結構大きく変わった、「Public Bias」という切れ味抜群の懐刀も手に入れた

 

この年、私はデビュー半年足らずで世でいう所の「億トレーダー」になる。

 

第6話に続く(近日公開)

 

 

香港K氏『100万ドルレポート』
【2025年最新版】を“期間限定”で無料公開!

数多くの“億超え達成者”を輩出した
伝説のFXトレーダー「香港K氏」

混乱のトランプ相場を“根こそぎ”利益に変えるための
『最新兵器』を引っ提げ電撃復活!

渾身の投資メソッドが記された
2025年最新版「100万ドルレポート」
をLINE登録者限定で無料公開中!

特典ゲット

ABOUTこの記事をかいた人

1976年生まれ、香港在住。 米国のアルゴリズムトレード格付け機関で分析を学び、30歳で金融機関向けコンサル法人を設立。ディーリングシステムやリスク管理、M&Aを手掛ける。その後、為替を中心としたヘッジファンドを創設し、英国で日本人独立系として初のFXブローカーライセンスを取得。3年半でバイアウト後、世界を旅するトレーダーとなる。現在は香港在住で愛妻・愛犬と暮らしつつ、FXブローカーやヘッジファンドへのコンサルを提供し、幅広い金融人脈を持つ。