第3話「始動」

とにかく私は理想の顧客を獲得した
H氏はお客の紹介もしてくれた、当然金持ちの周りには金持ちが集まる。
どなたも小さいお客さんでは無かった

私はその後も毎月、森伊蔵を担いでシンガポールを訪れ相場の話をたくさん聞いた。
H氏はお客を紹介してくれたうえ、沢山相場の話を私にしてくれた、その中には大きな失敗の話もあり、ただの武勇伝という訳では無い。

とにかく聞いてて飽きないのだ、やはり生きてきた人は違うなとその時も感じたものだ

最終的には
「Kさん、来てくれるのは良いけど森伊蔵はもうこれっきりにして、飲み過ぎて身体壊しちゃうよ」
私は手ぶらでH氏に会いに行けるようになった。

そんな私だが、ひとつ問題があった
気が付いてしまったのだ、ある事に

確かにH氏は理想のお客である。
なんせ負ける時はかすり傷程度で損切がとてつもなく上手い
獲る時は巨大な利益を取る、理想的な損小利大を地で行く人だ
何だかんだと私もマーケットに関わるのが長くなり現在では20年程業界に居るが、未だにH氏を超える相場上手に出会った事は無い
そうやって資産が伸びれば取引も増える。

だが、気付いてしまったのは
「こんな人は二人といない」
という事だ

H氏の様な方がいるなら、FX業者は必要だ
FX業者など要らないかもと思っていた自分の気持ち、そこには決着がついた
だが、私は運よくH氏に出会えたが、この先はどうであろう
この人(H氏)が100人いれば他にお客などいなくてもやっていける
問題はこんな人が何人もいる訳が無いという事だ

この先、一体いつまで新規獲得の活動を行えばいいのだろう?
丁度、営業にも広告代理店との打ち合わせにも飽きていたのだと思う。
また、巨額の利益を目に前でしょっちゅう挙げるH氏の存在が大きかったのかもしれない。

私は当然、相場を張る身では無かったが、FXの事は一通り理解していたし、トレーダーの人達よりレート生成の仕組みやシステムの仕組みなどは良く知っていた

今思うと、相場にハマるそもそもの下地は、どの素人より整っていた

あろうことか私は、業界(ブローカー業界)ではご法度である
「相場」に興味を持ち始めてしまった

私は意外と素直なため、先輩たちからの教えに従い
長い事相場は「やるもんじゃ無くやって頂くモノだ」と考えていた

そのため、当時でさえ業界で10年も仕事をしてきたが、その時まで自分で相場を張ろうなんて考えた事は一度も無かった、あれだけ負けるのだ、自分がやって取れるもんかと思っていたのかもしれない

相場への興味が日に日に増していく
ある顧客などは私の言動が変わっていくのに気が付き
「Kさん、またトレーダーみたいなこと言ってる」
とイジられることも一回や二回では無くなった

相場をやりたいのだが、私は弱小と言えどFX業者の経営者だ、投資活動は規制によりかなり制限される。
相場に興味が行って仕方ない日々、とにかくこのフラストレーションを払しょくするため苦肉の策で、この頃からデモ口座を触り始めた

今思えば、間違えなくこの時が

私の相場人生のスタートとなった。

 

それから、暇さえあれば相場の事を考えていた

殆どのFX業者では、全顧客の残ポジションを集計しているシステムがある。

これがとにかく酷い結果になっている
殆どの通貨ペアで売りと買いの両方のポジションが建っている

顧客全体の平均保有レートを見ると、
かなり高い所に買いポジションの平均保有レートがあり
かなり安い所に売りポジションの平均保有レートがある

ただ、所謂塩漬けポジションもあるのでそれだけをみて直近の傾向までは把握できない。
まあ、とにかく負けっぷりは酷いもんだ

目の前のお客がこうなので、H氏以外に参考にしたいお手本を持たない私は
H氏の様に勝つにはどうしたらいいだろう…

自然とそう考える様になる。

原油の時は原油在庫や原油製品在庫という話が有った
為替で、在庫?
こんなものない
そんなことを悩みながら、営業や会議の合間にとにかくポジションの監視を続けた

そんなある金曜日の事だ

その日は米国の雇用統計が発表される日で顧客のポジションを監視していると、米国の雇用統計の発表が近づくにつれ、徐々に売り買い両方のポジションが減っていった

注目すべきは平均保有レートの悪化…

あろうことか多くのトレーダーが有利なポジションを手仕舞い
不利なポジションを残しているのだ…

バカな・・・
当時、米国の雇用統計は現在よりも大きなリスクイベントでトレーダーには非常に注目されていた

なので、リスクイベントを前にポジションを手仕舞うのは理解できる
だが、不利なポジションを手仕舞う事を優先させるべきでは無いのか?

気になったので、その後の大きめの経済指標はポジションを監視する事にした。

やはり、どんな指標だろうがトレーダー(お客)の行動傾向は共通しており、有利なポジションを手仕舞い不利なポジションを残している(勿論全員という訳では無い、傾向として断然そうだという事だ)

二か月くらい監視し、どの重要指標も傾向は変わらない事がハッキリした
多くのトレーダーは損失を確定したがらない
これはよく理解した

繰り返すが、このFX業者のお客は一人を除いてこの時期でも全員負けている
期待してくれているかもしれないが、この時期の私のデモ取引も鳴かず飛ばずだった

だが、いま思えばこれに気がついたら8割は傾向を掴んだ様なモノだった
要は一般投資家というのは持っているポジションが軽い(ボリュームが小さいという意味ではない)

エントリー根拠が軽いのだ
損失というものは根拠が軽かろうが重かろうが、1円の重みは1円で変わらず、同じだというのに

リスクイベント前に手仕舞うという事は、例えば雇用統計の結果次第で揺らいでしまう根拠(もしかしたらそんなことも考えていないかもしれない)
こんなもの発表の日は決まっている訳だから直前に手仕舞わず予め逆算して回避すればいいじゃないか!

だが、私が取ったデモ口座への対策は非常にチンケなモノだった
デモ口座の取引ボリュームを極端に落とした

リスクイベントの結果ひとつで決済を必要とするポジションを作ってはいけない
偉そうに根拠が軽いなどと一般投資家を評価しても、この当時の私には重い根拠を構築する頭も腕も無かった

そんな、これといった思考法を持っていなかった当時の私ができる精一杯の対策は
保有ポジションのボリュームを絞るという誰でも思いつく対策だけだった。

私は意外に慎重だった
「H氏の様に相場で取れたらなー」となんとなく思う事はあっても
できる筈が無いとちゃんと思っていたし解っていた。
なんせ私は業界人だ、殆どの人が負ける事を目の前で見てきている

どうしたら相場の動きを読めるのか?
H氏とまでは行かなくとも、H氏の10分の1でも凄いことだ
私は日々考えた、結局行きついたのは
この1年でH氏から聞いた話のひとつひとつだった

とりあえずこの当時、私が持っている戦術は
雇用統計だろうがFOMCだろうが引く必要の無いポジションボリュームでポジションを保有するというユニーク(?)スキル
これでは「伝説の相場師」のH氏の足下どころか爪の垢にすら及ばない。

H氏は「素人は根拠も無く安いから買う」と言っていた。

そんな事を日々考えていのだが、2015年の12月のある日

FOMCと日銀の金融政策発表を目前に控えドル円が高騰していた、そのFOMCでは数年振りの利上げ予想が大半を締めていた、FRBの利上げを織り込みに動くドル円相場だったが、私はある異変に気付いた、うちの顧客はある時を境に売りに転じた・・・

(えッ、なんで…?)

最初、システムの不具合では無いのか?と目を疑った
だがシステムはいたって健全に運用されていた

素人目に見ても、数年振りにFRBが利上げを行うためドル買いに動くことは予想できた、当時日銀の金融政策は異次元緩和の真っ只中で何をしても動かない日本経済に日々資金供給を垂れ流す日々だった

だが、あろうことか私の顧客はある時を境に売ってきたのだ

利益確定のロングのクローズなら解る、違う、新規で売りを建ててきた!

大きなリスクイベントを控えて…
アンタ達はリスクイベントの前にいつもの様に有利なポジションを手仕舞うんじゃないのか?
新規売りだと???

この週、月曜日の欧州タイムから上げ始め、最終的に300pips超の値幅を叩いた。
当時のドル円レートは120円台だったので現在よりだいぶ安い、従って300pipsという値幅はかなりの値幅と考えていい

FOMCでは水曜日の日本時間深夜に金融政策を発表する。
結果は、市場予想通りFRBは0.25%の利上げを行った。
かなり織り込まれていたので値幅はあまり出なかったが、ドル円は高値を維持し引けた。

翌日木曜日の日中、日銀の金融政策発表は勿論「現状維持」
ドル円は、この日銀の発表後にこの週の天井を打った
(因みにこの時の高値123.50円台は2022年まで約6年半超えられることは無かった、要は、最後の戻り、本物の天井だった事を意味する)

日銀の金融政策発表後に天井を付けた後、ドル円はなんとその日のうちに240pipsの大幅反落。
後でアナリストは理由をこじつけて解説してくれたが、どれも腑に落ちない内容だった。
(こいつらもアテにならんな)

私の顧客はというと…
前日のFOMCの高値では何とか生き残る事はできたものの、ショートポジションは維持したままだった。

日銀発表直後の急騰でロスカットやストップアウトを喰っていた

そのため、その後の反落の際には保有ポジションはゼロになっており、本来期待していた急反落に乗ることなく
また、私の元から去って行った・・・

後からポジションの推移を見てみれば、その週の仲値付近から売り上がり、天井でロスカットを余儀なくされていた
(こうも綺麗にヤラれるものなのか?まるでアニメや映画の様だ…)

またH氏の言葉が頭を過る…

「素人は根拠も無く安いから買う」
もとい
根拠も無く高いから売ったのか・・・

私のデモ口座はこの週、資産が30%増加した。

 

第4話に続く

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ABOUTこの記事をかいた人

1976年生まれ、香港在住。 米国のアルゴリズムトレード格付け機関で分析を学び、30歳で金融機関向けコンサル法人を設立。ディーリングシステムやリスク管理、M&Aを手掛ける。その後、為替を中心としたヘッジファンドを創設し、英国で日本人独立系として初のFXブローカーライセンスを取得。3年半でバイアウト後、世界を旅するトレーダーとなる。現在は香港在住で愛妻・愛犬と暮らしつつ、FXブローカーやヘッジファンドへのコンサルを提供し、幅広い金融人脈を持つ。